オルゴールの小さな博物館
 
 


オルゴールは演奏家


 
 

 実はオルゴールには苦手な演奏があります。例えば早いテンポで同じ音程の連続音を出すことが苦手です。「ジングルベル」の唄い出し部分を思い浮かべて下さい。7回も同じ音が速いテンポで続きます。1本の櫛歯で表現しようと思っても、ゆっくりと回転するシリンダーに埋まったピンでは再現できません。そこで同じ音程の歯を3本用意します。3本の歯を順番に鳴らすことで「ジン(1本目)・グル(2本目)・ベル(3本目)」と演奏できるのです。

櫛歯の図

 

 例えば、音を長く延ばす長音を表現すること。例えば、演奏に強弱をつけることが苦手です。金属の棒を弾いて演奏するオルゴールには、構造上たくさんの苦手があるのです。オルゴールの発展は、苦手な演奏を克服する挑戦でもありました。特別な演奏技術にたけた当時のシリンダー・オルゴールには、得意な演奏技術の名前がつけられ、珍重されていました。そのほんの一部をご紹介しましょう。

 

『ピッコロ・ボックス』 ピッコロ用の高音の櫛歯を持ち、高調子でメイン・メロディの伴奏を行うオルゴール。

ピッコロ・ボックス
『マンドリン・トレモロ』 同じ音程の歯を7本から8本以上持つことにより、連続音や長音を表現します。マンドリン奏者のように、同じ音を急速に反復して鳴らせるため、トレモロ演奏を行なうことができます。  
『ピアノ・フォルテ』 強弱をつけた、豊かな演奏をするオルゴール。強弱をつけるには2つの方法があります。ひとつはフォルテ(大きい音)用の大きな太い櫛歯と、ピアノ(小さい音)用の小さな細い櫛歯の2枚の櫛歯を持つ方法です。1840年頃にニコール・フレール社が考案しました。もうひとつは、シリンダーに植えたピンの角度を変えることで、櫛歯を弾く力をコントロールする方法です。ピンの微妙な角度を考慮しながら何千本ものピンを植えていった当時の職人に、ただただ感服するばかりです。

ピアノ・フォルテ

ピアノフォルテ ピンの先端

『サブライム・ハーモニー』 同じ音階の櫛歯を2つ以上持ち、それぞれの櫛歯の同じ音の歯を同時に弾いて演奏します。櫛歯の調律をわずかに変えることで、音色に“うねり”が生じ、豊かにすることができます。また荒々しい音にせずに音量を増やすことにも成功したのです。1870年頃からのシリンダー・オルゴールの高級機に採用されるようになりました。 サブライム・ハーモニー
『ボワ・セレステ』 オルガンを弾くオルゴールはその澄んだオルガンの音色からボワ・
セレステ(天上の音楽)と呼ばれました。
 
『オーケストラル・ボックス』 ベル、ドラム、オルガンなど櫛歯以外の楽器を用い、音楽性を高めたオルゴール。様々な楽器が合奏し、まるでオーケストラの演奏のようだとこの名がつけられました。 ボワセレステ

 

 工夫を凝らして苦手な演奏を克服してきた当時のオルゴール達は、現在でも得意な演奏を披露してくれます。オルゴールは自動演奏楽器にとどまらず、櫛歯を演奏する演奏家といっても過言ではないでしょう。稚拙な演奏をする初期のオルゴール。繊細に強弱を表現するピアノ・フォルテ。煌めくようなピッコロの演奏。現在でも変わりなく荘厳に演奏を行なう奏者達。オルゴールが安らぎを与えてくれる自動演奏楽器といわれる所以は、個性的な演奏家達の活躍にあるのでしょう。

 

Update May 2009 

 
     
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オルゴールの小さな博物館は2013年5月15日をもって閉館しました。

Our Museum has closed its doors on May 15, 2013.